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CELTA講師には、発音や文法だけでなく、あらゆる場面や状況に応じた英語の使い分けも含めて大人の学習者に対してふさわしい英語を教えられることが求められています。たとえば、勘違いしている上司の認識を正したい時にはどんな
politeな言い回しを選ぶべきかというようなところまで、適切に教えられなければいけません。(この場合だったら、I think you took it wrong. とは上司に向かって言わない方がいいですね。たとえば、I'm afraid there may be a misunderstanding.という遠回しな指摘の仕方が無難です。)


CELTAの研修生として受講を認められるためには、こうした会話力が身につけていることも重要な要素なので、応募要件で21歳以上の大卒者を推奨しているようです。イギリスでは年齢的に普通にいけば大学の最終学年(3年生)以上ということになります。でもこれには、もう一つの理由があるんです。

それは、CELTA応募時のテストと面接でふるい分けの対象となる英語の発音です。CELTAの研修を経て晴れて合格したCELTA講師は、Received Pronunciation (RP) か Internaltional Standard English で授業を行うことが望ましいとされています。つまり、正しい発音ができない人は最初からCELTA研修生として受け入れの対象にし難いのです。日本では標準語で話せるかどうかの線引きを学歴でするなんて考えられないことですが、イギリスではRPで話せるかどうかの判断基準は「大卒であること」なんです。なぜなら、イギリスでは地方出身者やワーキングクラス出身者も大学へ行ったらRPで話せるように発音を矯正するものだという前提が一昔前まで存在していたからです。

だから大卒という受験資格からすれば、建前上はCELTAの研修生ならRPでちゃんと話せるはず、ということになります。でも実際のところは、大卒のイギリス人ならみんなRPで話せた(イギリスの大学生なら在学中に発音をRPに直した)というのは、もう40年くらい前までの話です。大学進学者数が増えた現代のイギリスでは、在校生の中でパブリックスクール出身者の割合も顕著ではなくなりましたし、大学生だからといって「周りのパブリックスクール出身者や教授陣の話すRPに発音を合わせなくては!」という一昔前の peer pressure もだいぶ薄れました。逆に若者が普段からRPで話すとposh(気取って上流ぶっている)だと嘲笑の対象になるので、最近のパブリックスクール出身のoxbridgeの大学生は粋がって、在学中には敢えてワーキングクラスの発音で話してみたがったりするから、大多数の大学生について「大学に入ったらRPで話せるようにならなきゃ」という意識が更に低くなってきています。
 
そんな訳で、CELTA研修生の中でも特に30代くらいまでの若手は教育実習中にRPで話し続けることに結構苦労していました。ただでさえ生徒を前にして授業慣れするまでは緊張してるし、教官から細かくチェックされると、やはり自分の育った地域の訛りが実習中にどうしても出てきてしまったりするものです。

CELTAの全課程を修了して審査に合格するまでには、他にも教員として覚えるべき語学的知識や磨くべきスキルが色々あって大変です。そういった新たに覚えるものはまだしも、もともと自分の言語として日常的に話してきた言葉の発音を大人になってから直すというのは、相当苦労するものです。どうしても発音をRPに直せず、教育実習の部分で合格の評価が受けられそうにないからとドロップアウトしてしまった同期生もいました。私はというと、中等部で身についてしまったAustralian accent を高校にいる間に意識的に外してきたことや、Queen Mary, University of London留学中も訛りに厳しかった音声学の教授のおかげで再認識させられて、「イギリスの大学生として生活しているのだ」という自覚から発音をRPに切り替えるためにお風呂の中でひとり練習したりしたことが功を奏したのでした。映画 My Fair Lady を見たことのある人なら想像がつきやすいかと思いますが、外国人として英語を勉強してきたからこそ習得できた特定の訛りのない発音で、CELTAの教育実習に臨めました。

それにしても、私なんか13歳からの Australian accent をロンドン大で完全に抜き去るまでに7年もかかったものを、イギリス人だから自国語とはいえ日常から使っていた発音をCELTA研修中のたった4週間で標準的なRPに直さなければ合格させないというのは、かなり酷なことのように思えます。でも、認定機関的には生徒さんの将来を思えばここは譲れないところだったのでしょう。

ただ大卒のイギリス人である(もしくは同等の語学力がある)というだけでは英語教員にならせてくれない・・・発音一つをとっても、CELTAがここまで厳しいのは、生徒が外国語として英語を覚えていく上でしっかりとスタンダードな発音の英語を耳に入れていくことが、実社会での英語の聞き取り、そして世界で通じる英語を身につけるうえで不可欠だからなのでしょう。

英語はCELTA講師に習ったほうが良い理由